2021.10.21

Spincoaster編集長・保坂隆純氏による”U+H”ライナーノーツ公開

gato 『U+H』
friendship.lnk.to/UtH

クラブとライブハウスを横断し、音楽以外のカルチャーとも接続しながら柔軟な活動を展開する5人組バンド、gato。バンドの活動スタイルがそのまま反映されたかのような、折衷的かつ刺激的なサウンドを詰め込んだ前作『BAECUL』から一転、長期化するコロナ禍の中で作り上げた待望の2ndアルバム『U+H』(読み:ユース)は、バンド独自のカラーは保持しつつも、柔軟な変化(これを“意外”と捉える人も少なくないかもしれない)が感じられる作品だ。刺々しい表現は影を潜め、ウェルメイドなポップネスを放つ楽曲が中心に据えられており、同時に有機的で包容力のあるサウンドは、バンドとしての充実感を表しているようだ。日々更新される現場での刺激をインプットすることが難しくなって久しい昨今、今作制作時にフロントマンのageが思いを馳せたのは、在りし日の自分。つまり、gatoや音楽活動を始める前のマインドだったという。

今作で一番最初に作り始めた曲は9曲目に収録された「21」。このタイトルは2021年に制作したことに加えて、自身が21歳だったことを表しているのだという。「前作『BAECUL』はgatoを始めて以降の自分を詰め込んだ作品だったのに対し、この曲ではgatoを始める前の自分について歌っていて。自分のこれまでの足取りやルーツを今の曲作りと接続させたいなと思って。それで(アルバムを)Youth(若者)を意味する『U+H』と名付けました」(age)。

軽やかなダンス・トラックながらドリーム・ポップ的な音使いも印象的な同楽曲は、確かにどこか青い感情を刺激するかのような、センチメンタルなナンバーだ。ageは自身の21歳の頃を振り返り、次のように語る。「自分で言うのもなんですけど、ピュアで真っ直ぐだったなと思います。本格的に音楽活動を始めてからは、色々なことを体験したし知識も増えた。その上で選択肢も増えたけど、だからこそ迷いが生まれたり、色々と悩むことも増えた」。若い頃の無知ゆえのピュアな強さや、成長に伴う苦悩の片鱗はメロウな「noname」にも表出しているように感じる。

また、今作を形作るもうひとつの重要な要素は、先述の通りメロディックかつ温かみのあるバンド・アンサンブル。これは2020年から続くコロナ禍で、音楽を享受する環境の変化に対して意識的になった結果だという。「シンプルに僕もクラブにほとんど行けなくなりましたし、音楽を聴く機会として家や移動中が中心になった。そうなったとき、ある程度の柔軟性を持ってないと適応できないんじゃないかなって考えました。聴き手のことを考えずに、自分たちの感性で振り切るのもアリだと思うんですけど、僕らとしてはやっぱり多くの人に聴いてもらいたいし、今この時代を生きているということも反映させたい。そういった思いから、今回の作風に変化していったんだと思います」(age)。

環境の変化と同時に、改めてバンドとしてのルーツやアイデンティに向き合いながら制作したという今作は、イントロとインタルードを含む全10曲を収録。なかでもフレッシュな印象を与えるのはバンド初のフィーチャリング・アーティストを迎えた「high range (feat. who28,さらさ)」だろう。DENYEN都市のメンバーであり、ソロ名義でもLEXやOnly U、DJ KANJIの作品にも参加するなどして注目を集めるラッパー・who28と、SSWのさらさを迎えた、ドリーミーなラップ・チューンだ。また、まるでパーカッションのように配置されたハンドクラップやトライバルなビート、エキゾチックな音色使いにエモーショナルなギターなど、振り幅の広い要素を大胆にまとめた「××(check,check)」は、gatoというバンドの確固たるオリジナリティを感じさせる1曲に仕上がっている。メロディックに歌い上げるパートとラップ調のフロウを自在に使い分けるageのボーカルも含め、今後ライブでのアンセムとなること必至だろう。
そしてアルバムの最後を締めくくるのは壮大なスケール感とアトモスフェリックな音響デザインが幻想的な世界観を構築する「no local」。ここでは“どこにも根を下ろしてない”というgatoの特徴が表現されている。どのシーンにも深く根ざすことなく、未開の地を歩んできた彼らだからこその説得力と同時に、一抹の寂しさも感じさせる1曲だが、ageはそんな自分たちの特性と、現状のシーンについて次のように語ってくれた。「(今のシーンは)厳しい状況だとは思います。このパンデミックがこんなにも長く続くとは思ってもいなかったので」「とはいえ、発信する側が下がったら、受け手も絶対に楽しくないと思うので、僕らとしてはネガティブなことは言いたくない。“gatoがいるから希望が持てる”って思ってもらえるように、色々な作品やコンテンツをドロップして、ポジティブな方向に引っ張っていきたい。そういったフィールド・メイクをするのが、“no local”な僕らの役割なのかなって」。

誰も経験したことのない未曾有のパンデミックはまだ終わらない。1年半以上も耐え忍びながらも、決して前を向くことを忘れず、現状と向き合い着実な進化を遂げた2ndアルバム『U+H』。今後のことはまだ誰にもわからないが、今はただこの傑作の誕生に大きな拍手を贈りたい。

2021.10.15 保坂隆純(Spincoaster)

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